握力評価の重要性
握力は全身筋力と相関関係にあるとの報告は多く、簡便な筋力評価としてい知られています。
今回は握力から評価可能な身体機能や移動能力について報告している文献をまとめてみました。
握力と身体機能の関係性
握力と身体機能の関連は多くの報告がされており、
握力と大腿四頭筋筋力や足把持力の関係、
握力と片脚立位能力の関係、
握力が基本的ADLの自立低下の危険因子であること
などがあります。
池田ら1)は握力のほかに、
①大腿四頭筋力
②片脚立位保持能力
③長座体前屈距離
④6分間歩行テスト
⑤10m障害物歩行時間
⑥Timed-up & Goテスト
⑦足把持力
⑧上体起こし
の評価を行い、各評価と握力との関係を調べています。
その結果、③長座体前屈距離以外の評価と有意な相関を認めており、
なかでも足把持力と大腿四頭筋力との相関が高かったと報告しています。
つまり、握力測定によって
- 下肢を含めた全身筋力の大まかな把握が可能
- 握力が強いほど歩行速度が速く、応用歩行能力が高く、歩行耐久性に優れている
- 握力測定が転倒の危険性予測に有効な可能性がある
- 握力測定でバランス能力把握につながる可能性がある
というような身体評価が可能となります。
握力と転倒リスクの関係
高齢者の転倒リスクについても多くの研究がなされていますが、
米国老年医学会のガイドラインによると、
高齢者の転倒リスクとして危険度が高いものは、
筋力低下>転倒歴>歩行障害>バランス障害
の順番だと言われています。
荒巻ら2)は訪問リハビリテーション利用者88名に対して、
握力、SS-5、開眼片脚立位などを評価し、
転倒歴と身体機能の関連性を調査しています。
その結果、
- 握力の平均値は転倒歴の有/無で16.13kg/21.95kg
- SS-5 の平均値は26.05秒/19.23秒
- 開眼片脚立位の中央値は2.05秒/10.38秒
となり、握力、SS-5、開眼片脚立位は自宅での転倒歴と関連があり、
転倒を予測できる可能性のある評価指標として、
有用である可能性が示唆されたと報告しています。
握力と移動能力制限
高齢者における移動能力制限(mobility limitation:ML)は、加齢に伴う障害段階の初期兆候として知られています。
MLは脚筋力の低下が強く影響すると言われており、脚筋力および全身筋力は握力と相関がみられるため、清野ら3)は握力によってMLを把握できる可能性を調べた結果を報告しています。
その結果、MLに対する握力のカットオフ値が、
- 男性:31.0kg
- 女性:19.6kg
となっています。
握力とサルコペニア診断
最後にサルコペニア診断としての握力評価の基準値を書いておきます。
- 男性:28kg以下
- 女性:18kg以下
サルコペニア診断には握力のほかにも、
・歩行速度
・5回立ち上がりテスト
・骨格筋量測定
などを評価して診断します。
参考
1)池田望 他:地域在住女性高齢者の握力と身体機能の関係.理学療法科学,2011,26(2),255-258
2)荒巻吏志 他:訪問リハビリテーション利用者における転倒リスク評価指標の検討.地域理学療法科学
3)清野諭 他:地域在住高齢者の握力による移動能力制限の識別.体力科学
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