はじめに
杖や歩行器など歩行補助具は様々なものがありますが、病院や施設で働く先生方はどのように補助具を処方していますか?
なんとなくこの人にはこの杖がよさそう。この人が元々この杖をつかってたからこのまま使ってもらおう。など、なんとなくあいまいなままに歩行補助具の処方をしていませんか?
今回はなんとなくで決めてしまわないように、歩行補助具の種類とそれぞれのメリット・デメリットを復習していきたいとおもいます。
歩行補助具の目的
まずおさらいとして歩行補助具の使用目的について考えます
まず一つ目、
①免荷効果による下肢負担の軽減
免荷指示がある場合や疼痛によって荷重困難な場合、歩行補助具を使用して患肢の負担を軽減することができます。
②支持基底面を広げて歩行を安定させる
歩行時にバランス不良がある場合、支持基底面を拡大させることで歩容を安定させることができます。
歩行補助具選定の基本的な考え方
片脚立位保持時間と歩行レベルの関係を研究した文献があるのですが、
客観的視点で独歩可能な人は患側片脚立位保持時間が4.3秒となっており、
主観的視点で独歩可能な人でも2.7±1.5秒となっています。
転倒予防のための歩行補助具選択に関する検討.和田・富永著,日本職業・災害医学会会誌 JJOMT Vol. 54, No. 4 P190から引用
このことから杖や歩行器を使うか迷った際、患側での片脚立位保持時間が4~5秒以下の場合は使用するべきと考えます。
歩行補助具使用のメリット・デメリット
メリット
- 歩容が安定する
- 歩行距離が延長される
- 日常生活での行動範囲が広がる
- 歩きたいという希望を叶えることができる
デメリット
- 適切な使用ができないと、逆に転倒リスクがあがることもある
- 見た目に抵抗を感じてストレスになる
各歩行補助具の特徴と適応
T字杖
・メリット
- 折り畳みであれば鞄に入れて外出できる
- 価格が最も安価
- 外観が大げさではない
・デメリット
- 免荷率は最も低い
- 使用による支持基底面が最も狭い
- 介護保険での貸与が困難
・適応
- 片脚立位時間が4~5秒以下の人
- 転ばぬ先の杖として補助具を持っていたい人
4点杖
・メリット
- T字杖より免荷率が高く、支持基底面も広い
- 手を離しても自立している
- 介護保険で貸与が可能
・デメリット
- 凸凹道では安定しない(屋内平地での使用に限る)
- T字杖より値段が高い
- T字杖より重い
- 前型歩行の難易度が上がる
・適応
- 歩行速度が遅く、揃え型で歩行する人
- T字杖では免荷率が足りない人
ロフストランドクラッチ
・メリット
- 2点で支持(手と前腕)できるため、握力が弱くても使用可能
- 関節リウマチ患者など手指の変形があっても使用できる
- T字杖と4点杖より免荷率が高い
- 介護保険で貸与が可能
・デメリット
- 支持基底面はT字杖と同じ
- T字杖より高価
- 起立、着座動作の妨げになる
・適応
- 関節リウマチなどで手指の力が弱い人
- 大きな免荷量が必要なひと
ノルディックポール
・メリット
- 上肢の力で強い推進力を得られる
- 体幹を起こすことができるので、体幹前傾防止になる
- 両側で使用するため、支持基底面が広い
- 上肢の運動になるので、歩行が全身運動になる
・デメリット
- 免荷装置ではなく推進装置のため、慣れが必要
- 両手がふさがれるため、荷物が持てない
- 他の両手使用する補助具と比較して免荷性能が低い
・適応
- 広い支持基底面で早く歩きたい人
- ある程度歩行能力あるが、体幹前傾してしまう人
サイドケイン
・メリット
- 免荷率がかなり高い
- 支持基底面が大きい
- 手すりと同じ感覚で支持することができる
- 介護保険で貸与が可能
・デメリット
- とにかく重い
- 歩幅が小さくなる
- 長期の使用で運動学習されると、動的歩行が困難になる
・適応
- ある程度力はあるが、安定性が低い人(片麻痺患者など)
- 高さに制限があるので、身長の適正がある人
松葉杖
・メリット
- 片側の完全免荷が可能
- 部分免荷など、術後荷重制限に対応可能
・デメリット
- 歩行習得の難易度が高い
- 免荷歩行では転倒リスクが高い
- 高さ調節の難易度が高い
・適応
- 完全免荷や部分免荷が必要な患者
ピックアップウォーカー
・メリット
- 支持基底面が広く安定している
- 小さな段差は乗り越えられる
- 免荷率が高い
- 介護保険で貸与が可能
・デメリット
- 両手使用でないと利用できない
- 歩行速度が遅く、長距離歩行は困難
- ある程度の腕力が必要
・適応
- 上肢の力はあるが下肢の安定性が低いひと
- 生活内での導線が短いひと
- 段差が比較的多い自宅に住んでいる人
キャスター付きピックアップ
・メリット
- 支持基底面が広く安定している
- ピックアップより歩行速度が速い
- 免荷率が高い
- 介護保険で貸与が可能
・デメリット
- 単純なピックアップより段差に弱い
- 単純なピックアップより上肢の筋力が必要
- 狭くて段差の多い家屋に相性が悪い
・適応
- 上肢の力はあるが下肢の安定性が低いひと
- 段差が比較的少ない自宅に住んでいる人
サークル型歩行器
・メリット
- 免荷量が大きい
- 歩行速度が速い
- 動的歩行と静的歩行のいいとこどり
- 屋内にて生活範囲が広がる
・デメリット
- 屋外では使用できない
- 大きいので狭い家では取り回しが悪い
- 段差を乗り越えることができない
・適応
- 受傷後や術直後のリハビリで使用
- 広くてバリアフリーの環境に住んでいる人
- 歩行推進力が弱いひと
四輪歩行車
・メリット
- 免荷性能が高い
- 歩行速度が速い
- 荷物を入れたり椅子にしたりできる
- 車輪が大きく、屋外で使用可能
・デメリット
- 段差に弱い
・適応
- 歩行が不安定だが、屋外歩行する人
- 買い物や散歩をする人
シルバーカー
・メリット
- 歩行速度が高い
- 車輪が大きく、屋外で使用可能
- 荷物を入れたり椅子にしたりできる
- デザインや種類が多い
・デメリット
- 体幹支持が弱いと使用できない
- 免荷機能はない
- 介護保険適応外
・適応
- 歩行能力はあるが、長距離歩行は困難な人
歩行車とシルバーカーの違い
歩行車とシルバーカー。どちらも同じ4輪の手押しタイプの歩行補助具ですが明確な違いがいくつかあるので整理しました。
まず定義の違いですが、
歩行車:歩行が自立できない人が身体を預けて使用するもの
シルバーカー:歩行が自立している人が荷物など運搬する際に使用するもの
という違いがあります。
次に外観ですが、
歩行車:ハンドルが「コの字型」(身体を支えやすい設計)
シルバーカー:ハンドルが「バー型」(免荷機能はない設計)
となっています。
それぞれの対象者は、
歩行車:歩容が安定しない人、歩行時に疼痛がある人
シルバーカー:自立して歩いているが、荷物の運搬などが困難な人
となります。
また、介護保険で利用できるかの違いもあります。
歩行車:介護保険でレンタル可能
シルバーカー:保険適応外
まとめ
今回は歩行補助具の基本から、各歩行補助具のメリット・デメリットなどをまとめました。
こうして並べてみると多くの種類があって、それぞれの得意分野を生かすために各患者や利用者に合った処方をすることはセラピストとして必要な技術だと改めて感じますね。
日々の臨床で機能向上だけでなく、各患者や利用者の生活スタイルやQOL向上を常に念頭においていきましょう。
参考サイト・文献
サイト
参考:歩行器それとも杖?理学療法士が解説する適切な歩行補助具の選定ポイント
参考:歩行補助具の選定ってどうしてますか? | 理学療法士・作業療法士のためのスキルアップノート
参考:似ているけど全然違う!歩行車とシルバーカーの違いを5つポイントから徹底比較!
文献
参考:転倒予防のための歩行補助具選択に関する検討.和田・富永著,日本職業・災害医学会会誌 JJOMT Vol. 54, No. 4 P188-192
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